渚は祐樹に連れられ、賃貸マンションへとやってきた。
1Kのロフト付きマンションである。
「へえ~、ここがお前が住んでるマンションか。中々いい部屋じゃないか」
渚は祐樹の机の上に乗っているテキストをパラパラとめくった。
「おい、勝手に触るなよ。そのテキストは俺のバイト先で配布されている講師用のテキストなんだから」
祐樹は部屋を片付けながら渚を睨みつけた。
「へいへい」
渚はバサッとテキストを机の上の放り投げるとロータイプのソファに寝そべった。
「全く……これから暫くは俺の部屋に居候する身なんだから。お前も少しは部屋の片づけ位手伝えよ」
「生憎、俺は何か月も寝たきりだった病み上がりでね」
渚は祐樹に背を向ける。
「その割には元気じゃないか」
祐樹は不服そうに渚を見下ろした。
「まあ、言われてみればそうなんだけどな」
その辺りは渚にとっても謎である。何か月も寝たきり状態だったにも関わらず、健康的で骨や筋肉等の衰えも全く見られなかったらしい。
(やっぱり、俺の身体を乗っ取った奴のおかげか? こうして目が見えるようになったのも……)
「お前、これからどうするんだ? 仕事だってクビになってるわけだし。もしよければ俺が夜働いているバーでバイトするか? お前バーテンの仕事だってやってたわけだし」
「そのうちな。考えとくよ」
渚は欠伸をした。
「悪い、今から少し寝かせて貰うわ。何か異様なほどさっきから眠くてさ……」
「何か月も眠ったままだったお前が眠いって言うのか? おかしな話だな」
祐樹は苦笑したが、渚からは返事が無い。
「お、おい……まさかもう寝たのか? いくら何でも早過ぎないか?」
けれどもその声は渚に届く事は無かった……。
****
そこは暗闇の世界だった。
渚は闇の中をあてもなく歩いている。
ここは何処だ……?
やがて渚は眼前にぼんやり浮かぶ人影を見付けた。渚はその人物に近づいてみる。
「……?」
その人物は見たこともない若い男だった。何も見えない真っ暗な場所に座り込んでいる。およそ表情というものは全く無い。まるで魂が無いマネキン人形のようだ。それが不気味さを醸し出している。渚の記憶には全く無い人物だった。
「お前、一体誰だ?」
話しかけても反応は無い。男はある一点をじっと見つめている。
(何を見てるんだ?)
渚も男の視線の先を追う。
よく目を凝らしてみるとぼんや